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Nr. 520 Juli 2024
さて、今回は「ドイツ連邦軍とNATO」が取り上げられています。
ドイツはNATOの一員であり、ドイツ連邦軍は、NATO領域の防衛においては、ドイツがNATOの一員であることで攻撃者が思いとどまるように協力体制にあることが求められます。しかしながら、長年にわたり、NATO領域外での軍事行動は制限されてきました。領域外での軍事行動においては、その地域の状況を安定させることが重要であり、限られた兵力と武器だけが必要だったからです。しかしながら、ロシアが2014年にクリミア半島を併合したとき、この状況は変化しました。
しかしながら、ドイツではこの新しい状況に対して殆ど対応がなされませんでした。多くの人々が、状況が変ったことにようやく気がついたのは、ロシアが2022年2月24日にウクライナを攻撃したときでした。今や、ドイツ連邦軍の中心的な任務は再び、NATO領域の防衛となりました。
軍事専門家たちは、NATOの領域へのロシアの攻撃が今や再び考えられると思っています。ただし、近い将来ではないとしても、例えば5年から8年後が考えられます。その場合、ロシアは本当に再びヨーロッパに対し軍事的な脅威となる可能性があります。これに対抗するためには思いとどまらせること、つまり抑止力だけが役立ちます。そのためには多くの軍備と兵士が必要です。
ドイツ連邦軍の可能性のある展開地域は、冷戦時代と比べ数百キロメートル東に移動することになるでしょう。この準備の一環としてドイツ連邦軍の部隊は様々な国に展開されており、その中にはリトアニアの一個旅団も含まれています。この部隊は2027年運用可能になる予定であり、第10戦車軍団に所属する予定です。
1956年以来、ドイツでは徴兵制度法が存在していますが、2011年3月に変更され、暫定的ですが、現在は誰も兵士になる必要はありません。兵士になるのは自由意志です。現在、兵士数も予備役としての兵士数も減少しています。兵役制度がまだ適用されていた時は、80万人の兵士がいつでも召集され、軍隊の規模を130万人に増やすことができましたが、現在はそのような状況からはほど遠いです。
以前は、予備役を補充するための古い構造が存在していましたが、現在は存在しません。また、徴兵制度の停止に伴い、予備役の勤務も自発的なものとなり、さらに予備役の雇用主の同意も必要です。予備役として活動しているのはわずか39,000人の男女の元兵士です。毎年10,000人が加わり、最終的には90,000人になる予定です。
NATO加盟国の連帯を強化するために、共同の軍事演習を実施しています。この冷戦終結以来最大の演習には90,000人が参加しました。その内12,000人はドイツから来ています。この演習は2年前から計画され、ノルウェーからバルト三国そしてルーマニアにかけてのNATO領域の国々で実施されました。デモンストレーションされるべきだったのは団結であり、もたらされるべきだったのはNATO加盟国の内の一国への攻撃を抑止させることでした。これにより、プーチン大統領の脅しと彼の領土要求に反応しました。
彼は恐らくヨーロッパ全体を狙っているわけではないだろうと考えられますが、バルト三国を狙っているだろうと思われます。彼はNATO加盟国がNATO条約に基づき支援義務に合致した形態で本当に互いに支援するかどうかちょっとテストしようとしているのかもしれません。
現在リトアニアにおいて計画されているような外国におけるドイツ軍の永続的な駐留は、これまでにはなかったものです。これは新しい試みであり、兵士にとってだけでなく、政治家にとても新しいことです。
国土防衛については間接的にしか論じられていません。なぜならば、ヨーロッパのどの国も単独で自国防衛することができないだろうと思われるからです。そのためには複数の国の協力が必要であり、NATOがそれだけ重要であるということです。
しかしながら、NATO内でドイツ連邦軍は重要な役割を担っており、それを果たすことができるためには、これまでよりずっと多くの武器や兵士が必要です。しかしながら、注文した武器が納品されるまでには多くの時間がかかります。ドイツ連邦軍の進歩と改革は非常に肯定的に評価できますが、すべてが非常に遅いと批判することもできます・・・。
さて、今回の放送および課題において触れられているドイツの徴兵制ですが、2023年1月にピストリウス国防大臣が「・・・2011年に徴兵制を停止したのは間違いだった」と発言し、以後兵役義務の再開の是非について議論されているようです。私が調べた限りでは、ロシアのウクライナ軍事侵攻を背景に、兵役義務の再導入に対して賛成する意見が過半数のようです。例えば、Statista社の調査(2024年1月実施)によれば、賛成52%、反対48%、Forsa社の調査(2024年3月実施)では、賛成52%、反対44%。また、#NDRfragt社の調査(2024年6月実施)では、賛成60%、反対40%でした。圧倒的多数の人々が賛成というわけではありませんが、3社のどの調査においても賛成が反対を上回っています。ただ、圧倒的多数が賛成というわけでは無かったということは、意見が割れているとも解釈できると思います。ロシアのウクライナ軍事侵攻前、つまり兵役義務が停止された2011年から2021年の間に実施された世論調査については調べられませんでしたので、比較ができませんが、恐らく賛成が多数を占めることはなかっただろうと想像します。それがウクライナへの軍事侵攻により一変したのではないかと想像します。まさに後述の通り、ショルツ首相の表現を借りれば「時代の転換期」だったのだと思います。
さて、2022年2月のロシアのウクライナへの軍事侵攻は衝撃的でしたが、以来、これに関連し数多くの出来事が起き、多くの政治家が発言しましたが、特に私の印象に残ったものは以下の点です。
1.シュタインマイヤー大統領の自らの誤りを認めた発言
ロシアのウクライナへの軍事侵攻後、シュタインマイヤー大統領が公の場で大統領自身が首相府長官、外務大臣在任中のみならずSPDが行ってきたロシアに対する宥和政策の誤りを認めました(長い間ドイツが掲げてきた„Wandel durch Handel”という政策は対ロシアに関して有効な時期があったものの、現在では誤りだったという評価なのかもしれません)。当時たまたまインターネットでドイツのニュースをチェックしていた私は、現職の大統領から発せられたこの発言に驚きもしましたし、率直かつ潔い発言だと思い、好感が持てました。しかしながら、残念なことに当時の日本の大手メディアで彼の発言を取り上げたところは私の知る限りなかったように思います。
2. ショルツ首相の「時代の転換期」(„Zeitenwende”)発言
ショルツ首相は連邦議会において、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関連し、この攻撃を「時代の転換期」(„Zeitenwende”)と表現したことが私の印象に残りました。この言葉は、2022年の„das Wort des Jahres”(「今年の言葉」ですが、日本の「新語・流行語大賞」のようなものだと思います)にも選定されるほどドイツの社会にインパクトがあったと思いますし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻がいかにドイツの人々にショックを与えたかが窺えます。Wikipediaによりますと、「その対応でドイツ政府は軍の強化に向けた基金に2022年に1,000億ユーロを振り分ける方針を示すとともに、2024年までに国内総生産(GDP)の少なくとも毎年2%を国防費に毎年充てると表明した」。そしてこの発言は、当時ドイツ社会のみならず、ヨーロッパにおいて受け入れられたのではないかと思います。冷戦終結後ドイツの国防費はGDP比1%台で推移してきましたが、大幅に増強され今後は2%台になる見込みです。
3. シュレーダー元首相の発言や行動
元々プーチン大統領との関係が近く、ノルド・ストリームの建設に力を注いだシュレーダー元首相は、ロシアのクリミア半島併合など国際法に違反する行為についてプーチン大統領を擁護したり、「ブチャ虐殺はプーチン大統領の責任ではない」との擁護発言をしたり、2023年5月9日の在ベルリン・ロシア大使館で開催された対独戦勝記念日に出席したりと物議を醸す発言・行動が多いと言われています。従いまして、「政治家としての晩節を汚した」(ドイツ在住ジャーナリストの熊谷徹氏)と言われても仕方がないだろうと思います。
4.エネルギー資源の供給源としてのロシアとの決別
ドイツは、ウクライナ軍事侵攻前には全天然ガスの約半分を、原油の三分の一以上をロシアからの輸入に依存していました。ウクライナ軍事侵攻後2022年8月にはノルド・ストリーム経緯の天然ガスを、そして2023年1月には原油のロシアからの輸入をそれぞれストップしました。エネルギー資源の供給源を世界各国に求めると共に(他国に買い負けしないためには高く購入せざるを得なかったこともあったかもしれませんが)、再生可能エネルギーにさらに注力し、また当初予定していた2022年夏における脱原発を2023年4月に延期するなどしてエネルギー資源確保に取り組んだといいます。ドイツにとって主要なエネルギー供給源だったロシアからの供給が断たれることになったのは大きな痛手だったと思いますが、現在は、ロシアと決別できたのではないかと思います。では、今後当面は「ノルド・ストリーム」は凍結されるとしても、果たして半永久的に凍結されるのでしょうか。10年後はともかく、20年後、30年後も凍結されたままでしょうか。もっとも、それまで使用もされず、メインテナンスもせず放置されていれば、装置としては使用不能になると思われますので、凍結と同義かもしれません。
5.スウェーデンとフィンランドのNATO加盟
スウェーデンとフィンランドは長年にわたり中立を国の外交防衛方針としていましたが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻後、NATO加盟に方針を転換しました。両国は自国の軍事力だけではロシアの脅威に対抗できないと判断したといいます。2023年4月にフィンランドが31番目の国として、そして2024年2月にスウェーデンが32番目の国としてそれぞれNATOに加盟しました。両国が加盟申請に動いたとき、プーチン大統領は大きく反発したようですが、当時ある大学の准教授が朝日新聞の取材に答えて「プーチン大統領のオウンゴール」と語っていたのが印象に残っています。NATOの東方・北方拡大を阻止したかったプーチン大統領にとっては、とんだ誤算だっただろうと思います。予期せぬこの不都合な事態を「オウンゴール」と表現したことにはなるほどと納得しました。
ところで、ロシアのウクライナへの軍事侵攻とは関係ないのですが、長期に亘って(2005年~2021年)ドイツの首相を務めたメルケル氏についても最後に触れておきたいと思います。
2021年12月に首相を退任したメルケル前首相はいずれ自伝を出版すると言われてきましたが、今秋、自伝を出版することを先日インターネットで読みました。彼女が自身の在任中のことに限定して書くのであれば、ロシアのウクライナ侵攻については触れられない可能性もあります。しかしながら、西側首脳の中でプーチン大統領と最も多く会談をしたのはメルケル前首相であると言われていますので、自伝の中では少なくともプーチン大統領については言及されるものと思います。彼についてどのように書かれるのか個人的にはとても興味があります。また、在任中にロシアに対してどのような見方をしていたのかも興味がわいてきます。
K. K.