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Nr. 541 September 2026
今回は「よい患者・医者関係」が話題になっています。
医師とその患者の関係は、多くの場合、患者と自分を診てくれる医師たちとの関係と同じくらい複雑です。双方が望むような良好な医師・患者関係がいつも築けるわけではなく、ときには患者が医師の元を離れ、より快適に感じる別の医師のところへ行くこともあります。
あるアンケートにおいて、ある女性は、医師に電話をかけたとき、人間の声が聞こえるだけでもうれしくなると回答しています。そして診察時間に医師の元を訪れたときには、医師がコンピュータ画面を見つめるのではなく、自分のほうを見て挨拶し、まず短い会話の中で、今回自分がなぜ受診したのかを聞いて欲しいといいます。
医師としては、何をすべきかを理解しています。しかしながら、それはしばしば、患者にとって大きな負担をかけることになるかもしれません。そのため、多くの医師は、まず患者と一緒に治療の選択肢について話し合い、共同で決定に至ろうと努めています。というのも、ここにはほとんどいつも複数の可能性があるからです。しかしながら、たとえ複数の選択肢がない場合でも、患者が助言のための話し合いの後に十分に情報を得ており、なぜそれが必要なのか、どのような副作用が起こりうるのかを理解し、そして自分もその決定を分かち合うと言えることが大切です。
患者が何らかの副作用や一時的な制限に備えなければならないかを理解しているとき、それが医師と患者との共同決定である場合には、良い結果をもたらします。さらにそれは、例えば、患者がより深い理解をもって、どの薬をいつ服用すべきかを守るようになるとき、非常に良い結果をもたらします。医師は、長年医学を学び、定期的に研修を受けているため、患者に対して大きな知識上の優位性をもっています。しかしながら、今日では患者も例えば、患者会・自助グループやインターネットなどを通じてますます情報を得るようになっています。この番組を聴いている人は、放送局に電話をかけて質問したり、自分自身の経験を語ったりするように呼びかけられてもいます。
電話をかけてきた一人がヴァーグナーさん(Frau Wagner)でした。彼女の母親のような高齢者が若い人ほど真剣に受け止められていないことに、不快感を覚えました。彼女の母親は、健康上の問題を抱え、一度きちんと検査を受けることを望んでいましたが、さらに痛み止めをもらっただけでした。この番組のためにスタジオに招かれていた女性教授は、これについて次のように述べました。医師たちは、多くの高齢者に関して問題を抱えていますが、それは高齢者の体が変化するかについての研究が不足しているためだといいます。
彼女は、ある薬をどれくらいの量で使うべきか、薬が高齢者にどのように作用するのかについいて、しばしば十分に分かっていないことがあると述べています。特に虚弱といった要因が加わる場合には、副作用を避けるためにも治療内容を変えなければならない、と述べています。
そして、重要なのはまた、日常生活での自立を確保することであるといいます。その結果高齢者が自分の生活能力を失わず、引き続き自分で服を着たり、自分で買い物に出かけたりすることができるだといいます。
ヴァーグナーさんの母親は、診察を受けられなかったので、とても怒ってしまいました。専門医はスペシャリストであり、その多くは病院に勤務しています。しかしながら、病院で診察の予約を取ろうとする前に、まずは自前の診療所を持つ専門医のところに行くべきとされています。そのような専門医または病院には、普通自分をよく知っているかかりつけ医から紹介してもらいます。かかりつけ医は必要な情報を同僚の専門医に伝えることができます。
患者が自分からすべてを説明しようとすると、多くの時間がかかる可能性があります。まずはかかりつけ医のところに行くことが常に勧められるのは、たいていその医師が患者本人だけでなく、家族全体を知っており、ひょっとすると、患者の祖父母を治療してきていることがあるからです。例えば、患者がどのように食事を改善すべきかということが問題である場合、どう進めるべきかを最も適切に判断できるのはかかりつけ医です・・・。
さて、番組冒頭および課題において、アンケートである女性が「よい患者・医者関係」について語っている箇所があります。それによりますと、予約の電話をかけたとき、AIではなく人間が直接対応してもらえること、診察室に入ったとき、医師がまず患者を見て挨拶し、すぐにコンピュータ画面に向わず、最初に短い対話をして、何が問題なのかを聞いてくれること、そして機械に頼りすぎず、問診を中心とした丁寧な診察をしてくれることだと述べています。ドイツではこのように考える人が多いだろうと思いますし、私自身もほぼ同意できます。ただ、最初の予約については、私は必ずしも人間でなければならないとは思いません。むしろ、医療機関での省力化にもなりますので、AIまたはコンピュータ画面で行うほうがよいのではないかと思います。私自身も医療機関によっては、コンピュータ画面を通じてネット予約をしているところがありますが、むしろ便利だと感じています。
ところで、番組に電話をかけてきたリスナーの一人であるヴァーグナーさんは、母親が健康上の問題を抱えていながら、あるかかりつけ医において痛み止めを処方されただけで、検査をしてもらえなかったとのことです。さらに別の医師に診察を受けましたが、状況は変らなかったとのことです。本来、若者であろうと、高齢者であろうと健康上の問題があればその症状・診断にふさわしい検査が行われるべきだと思います。高齢者である私は幸いそのような経験がないので、ヴァーグナーさんの母親の場合は、気の毒としか言いようがありません。日本ではちょっと考えにくいのではないかと思いました。むしろ日本では逆に不要かもしれない検査をやりすぎているという指摘があることは聞いたことがあります。その後ヴァーグナーさんの母親はどうなったのか気にかかるところです。
また、番組中に電話をかけてきたもう一人のリスナーであるクルツさん(Herr Kurz)の事例が紹介されます。彼は公的医療保険に加入していますが、私的医療保険との格差を身もって感じたということです。彼が通っていた整形外科医の最後の診察は、わずか30秒で終わり、彼の症状に対して理学療法を処方しただけでした。彼としてはもう一つ別の相談事項がありましたが、整形外科医は「問題ありません(Alles schön)」と言っただけで、すぐに診察室を出て行ってしまったとのことです。その後、彼は自費診療として別の整形外科医に行ったところ、その医師は、彼に本当に長い時間をかけて向き合ってくれ、生活習慣についても質問にも答えてくれたとのことでした。そのことが彼には長期的にとても役に立ったといいます。
また、彼が指摘するのが、診察予約や連絡手段において、私的医療保険の患者(Privatpatient)が優遇され、公的医療保険の患者(Kassenpatient)が不利な扱いを受けるケースが増えていると言う点です。例えば、最近では、彼の主治医の内二人が、電話受付を「私的保険患者専用」に切り替えてしまったとのことです。つまり、患者が電話をかけると自動音声で「あなたが私的保険である場合、そのままお待ちください」(Wenn Sie Privatpatient sind, bleiben Sie in der Leitung,)と流れ、さらに「そうでない場合、メールで連絡ください!」(sonst schreiben Sie uns eine E-Mail!)と続くといいます。このような対応がドイツではどれくらい拡大しているかはわかりませんが、自分自身がそのような音声を聞いた場合、面食らうと思いますし、時にはその差別に不愉快に思うかもしれません。ある資料によれば、現在のドイツでは国民の約90%が公的医療保険に加入し、約10%が私的保険に加入しているようですので、格差が存在しているとしても、大多数の国民は受け入れているのだろうと想像します。
私は1986年10月~1991年1月にドイツで勤務していましたが、(まだ若かったせいもあるかと思いますが)幸いなことに医師の世話になったのは、インフルエンザに罹り高熱を出した時の日本人の内科医と、歯科医(Zahnarzt Dr. Bauerという歯科医だったと記憶しています)に行ったときだけでした。内科医もそのクリニックに行ったのではなく、インフルエンザに罹ったようなので予約をしたいと電話で伝えたところ、発熱が主な症状ならば、クリニックに来る必要はないので、十分水分をとって安静にしていてくださいと言われただけでした。従って、医療費も発生しませんでした。また、予め予約をした後で、上記の歯科医に行った際には、診療所に到着し、診察室に入ったとき挨拶をしたところ、握手を求められて驚きました。患者と握手をするのは普通なのだろかと思ったものでした。同時に、日本では考えられないと思いました。私個人としてはドイツ滞在時での医師との関わりはこの二つの経験しかありませんので、ドイツの医療機関での診察がどのようなものか全くわかりません。従って、ヴァーグナーさんの母親やクルツさんのようなケースがよくあるのかどうか分かりませんが、番組で取り上げているということは、珍しい事例ではないのかもしれません。
番組においては、ドイツの医療制度には公的医療保険加入者と私的医療保険加入者の格差の問題が指摘されています。上記のとおり、私はドイツで勤務中にはほとんど医療機関に行く機会がありませんでしたので、ドイツの医療保険制度については全く知りませんでした。日本では、国民健康保険と社会保険がありますが、基本的に給付内容はほぼ全国一律で、医療アクセスに大差は生まれない仕組みです。この点はドイツと日本で大きく異なる点だろうと思いました。
K. K.