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Nr. 415 September 2015
さて、今回は、Wolfgang Kaiserさんという紆余曲折の経歴を有する歯科医師が特集されています。彼の本業は歯科医師ですが、様々な学校で学んだ結果、芸術家、金銀細工師、出版者でもあります。「ドイツ人=この道一筋」という私のドイツ人観からすると、ドイツ人としては非常に異色の人と言えるのではないかと思います。
彼は、1944年にJenaで子だくさんの家庭に生まれました(放送時点で70歳)が、彼には7人の兄弟姉妹がおり、誰もが楽器の演奏をしました。彼の受け持ちの楽器はクラリネットでしたが、兄弟姉妹も、ピアノ、チェロ、バイオリン、フルートなどを弾きましたので、一家で小さな室内オーケストラを構成できたということです。Kaiserさんの父親は、たいへん音楽の才がありました。父親は教師でしたが、Rudolf Steinerの人知学(Anthroposophie)を信奉していました。母親は、家政学の教師でした。ところが、両親は、Kaiserさんのことをとても心配していました。なぜならば、Kaiserさんがギムナジウムを2度も退学したからでした。1度目は、学校へ行く気になれなかったためでした。2度目は、恋愛をしたので、早く職を身につけて、家庭を築き、子どもを持ちたいと思っためでした。
ギムナジウムを退学した後に、金細工職人の勉強を始めました。ところが、3年の予定だったその勉強を、3ヶ月後には止めてしまいます。その後彼は専門学校に通いましたが、そこでは、見習い修行に行っていた金細職人の親方の所と同様に、ほとんど自由がなかったため、ある美術工芸学校に出願しました。ところが、彼はその学校では受け入れてもらえず、半年間、ある私立の絵画・デザイン学校に通いました。その後、再度、その美術工芸学校に挑みました。そこで銀細工師でもある、ある教授の下で学びたかったからでした。彼はその教授のところにかばん(ファイル?)一杯の作品サンプルを持参して行きました。今度はその美術工芸学校に入学でき、そこで5年間学びました。
彼がそれまでに学んだことでは生活できませんでした。何をすべきかわかりませんでしたので、改めてアビトゥーアに合格しようと決心しました。そのために今度は夜間ギムナジウムに通いました。日中はお金を稼ぎ、夜間は授業を受けます。よい成績を取るために夜間ギムナジウムでは必死に勉強をしました。というのは、これが自分の最後のチャンスであることは彼には明らかだったからです。彼は、以前のギムナジウムでは、既に11学年から12学年に進級していましたので、アビトゥーアまでには夜間ギムナジウムでは13学年から2年間だけ通えばよかったのです。そこでは彼はとても努力しましたので、歯学を学ぶ事ができるほど好成績を取る事ができました。数学では1さえも取れました。彼のような良い成績であれば、どの学部でも勉強できると思われましたので、歯学だけでなく、医学、獣医学、薬学などの学部に申し込みをしていましたが、ハンブルク大学から歯学部の入学許可があった時、歯学部に決めました。彼は、家族と一緒にJenaからHamburgへやって来て以降ずっと、Hamburgで育っていたことが理由でした。
歯学部では、実習を含め、学生には週45時間の授業が課せられていました。その勉強は10学期続きました。彼は多くの事が多く耐え難いほどだったと振り返っていますが、すべての試験でsehr gutで合格するほど一生懸命に勉強しました。そして最後には、博士論文も書き上げました。因みに、美術工芸学校での5年間は、歯科医師としての彼にとって無意味なことではありませんでした。というのは、歯科の治療は、手(手先)を使う仕事でもあり、美的感覚もまた重要であるからです。
彼は、ギムナジウムでは、ドイツ語と生物学で成績がよかったとのことです。生物学は、歯学の勉強につながっています。また、ドイツ語の授業では、文学や叙事詩に対する彼の関心が育まれました。それがきっかけになり、彼は1982年に小さな出版社である„Haus Grenzenlos”を設立します。彼はまた、セイシェル諸島での歯科医師としての長年のボランティア活動が認められて、セイシェル共和国が1983年に彼の記念切手を発行したとのことです。そして現在でも彼の後継者たちが島の住民の歯科治療を行っているとのことです。
Kaiserさんは、3回(ギムナジウムを2回、金細工職人の学校を1回)も学業を中断するという挫折を経験しながらも、ある時期に必死に勉強することにより、平均的な人間が経験し得ない多くの分野で知識や技術を身につけました。最終的に、歯科医となっただけでなく、更に「人の役に立ちたい」という思いを強く持ち続けた結果、歯科医師という自分の本業により発展途上国でのボランティア活動に尽力してきました。Kaiserさんは正に歯科医師、芸術家、金銀細工師、出版者など数人分の人生を生きて来られ、尚現在も生きておられる人なんだなあと驚かずにはいられませんでした。
K. K.