Kommentare zu
Nr. 475 Oktober 2020
今回は、ドイツのラジオ放送における宗教の番組が話題になっています。具体的には、仏教、カトリック、プロテスタントの番組が取り上げられています。
文化はラジオにおいても重要なテーマですが、そこには宗教も含まれます。放送されるのはキリスト教やユダヤ教についてだけではなく、イスラム教、仏教それにゲルマンの神々についても行われています。さらには、宗教の放送が、例えば、ドイツ放送では毎日曜日、全祝日には5分間の朝のお祈りが加わります。これは教会の放送で、教会および宗教団体が自らの手で行っています。
2020年2月9日の放送ではベルリン仏教協会が担当しました。ノアクさん(Frau Noack)はこの団体の役員会の一員です。ノアクさんが放送で語ったことは、ひょっとしたら概ね以下のように纏めることができるかもしれません。21世紀の3番目の10年に、人類は更なる破局を阻止するために多くのことを成さなければなりません。しかしながら、多くの人は変革を全く望みません。ものみなすべてうつろうということ、つまり諸行無常を受け入れようとはしません。ライオンの咆哮の経典においては、動物たちはライオンの咆哮を聞くと不安そうに身を隠すと書かれています。なぜならば、動物たちは過度に安定性や継続性を切望するからです。
しかしながら、人は世界をあるがままに見なければなりません。世界の諸行無常に気づくことにより初めて、存在のサイクル(Daseins-Kreislauf)から抜け出すことができます。人は、長期に亘って人を害しているものを放す訓練をする必要があります。世界をあるがままに受け入れるということは、しかしながら、受け身になったり、あきらめたりすることではなく、涅槃に到達するために仏教の訓練に没頭することを意味します。
ノアクさんが、経典を引き合いに出しているのに対して、2020年2月24日のバラの月曜日のカトリックの朝のお祈りでは聖書については全く言及がなされていませんし、キリスト教の神についても話題にされず、その代りに1人のアメリカの経営者(アップル社の共同設立者の1人であるスティーブ・ジョブズ)とあるアメリカの大学における2005年の卒業式の同氏の祝辞に言及がなされています。この祝辞において、この経営者は学生たちに、人生は自分で作り上げるように、そして人生において自分自身の役割を能動的に探し求めるように求めました。
その際には、個々の点が最後には一つの全体の中に組み入れられることを信じるべきであるし、運命へのこの確信を決して諦めてはならないといいいます。これが学生たちに行ったこの経営者の第一番目の助言でした。そして彼の第二番目の助言は、自分が何を本当にしたいのかを発見することです。なぜならば、卒業後に決める就業は人生の重要な構成要素だからです。これに満足しようとする者は、正しいものを本当に見つけ出すまで諦めてはならないのです、というものでした。
ルエリウスさん(Herr Ruelius)は、当時この演説を聴いた多くの卒業生はたぶん、にかなり普通に職業上の成功を収めたのだろうということ、しかしながら、何人かは何か他のものに対する追求、つまり人が勇気と愛をもって見つけることができる本質的なものに着手しただろうということを述べています。
„Feiertag”というのは、ドイツ放送の文化番組において日曜日および祝日の7時5分~7時30分に放送されるシリーズ番組のことです。この番組ではプロテスタント教会とカトリック教会が交替で担当します。今年2月9日に出演したティールさん夫妻(Herr und Frau Thiel, Das Ehepaar Thiel?)はそれぞれプロテスタント教会の牧師と女性牧師です。夫妻は沈黙の重要性・意義について語りました。ティールさん(Herr Thiel)にとって沈黙は一種の空き部屋のようなもの、つまり、2個のeを含むLeerstelle(空席、空位)、言い換えると空いたスペースですが、hの綴りのLehrstelle(徒弟勤務のポスト)にもなり得るといいます。なぜならば、沈黙はティールさんにとって、偉大な師だからです。ティールさんはこのことをスイスにおける沈黙の週で経験しました。
ティ―ルさんは、牧師としてベルリン連邦軍病院において患者たちの面倒を見ています。ティ―ルさんの同僚の1人は、精神科病棟の主任医師ですが、昨年、かつての修道院で沈黙の日々に参加しました。そして、そこで多くの考えをめぐらせました。日常では、集中して十分考えに没頭できていない、なぜならば、そのための十分な時間が全く取れないからだと、思っています。彼は、それまで再三延期してきたプライベートに関する決定をそこで行いました。ティ―ル夫人(Frau Thiel)は、胃だけでなく、心も消化活動をする必要があり、そのためには眠り込む前にそのための時間を持つべきであると考えています。沈黙の効果・影響を経験するために、ティ―ル夫人はラインラントのプロテスタント教会の「沈黙の家」(„Haus der Stille”)というセミナーハウスで過ごしたことがあります・・・。
ところで、ドイツの学校において宗教の授業があることは私も漠然と聞いて知っておましたが、今回の放送でプロテスタントとカトリックだけでなく、仏教の授業もあることが分り驚きました。ドイツの学校教育に関しては州が所管していると聞いていましたので、州によって宗教の授業のありかたは異なると想像します。放送で登場するノアクさんはベルリンで仏教の授業をしているとのことですので、少なくともベルリンでは仏教の授業も受けられるというのは発見でした。
さて、私がデュッセッルドルフでかつて勤務していたのは30年以上も前の1986年~91年でしたが、当時日本の寺院が同地に建てられるらしいといううわさを聞いたことを思い出しました。その後全くそのような情報には接しませんでしたが、今回の放送のBeiheftにより当時のうわさ話が本当だったことを知った次第です。インターネットで検索したみましたが、大分立派な恵光寺という寺院のみならず、同じ敷地内には恵光日本文化センターも設立され、広範な文化活動を行っているのことを知りました。そしてこれを設立したのは、ある精密測定器機メーカーの創業者でもある沼田恵範氏ということも分かりました。同氏は1897年、広島県の浄土真宗の寺院に生まれ、若い頃仏教布教のために20世紀初めに渡米し、かつ米国の大学および大学院で学んだ後、1930年に30歳で帰国したということです。また、上記日本文化センターの設立だけでなく、米国などにおいても私財を投じて仏教伝道のため様々な活動をしていたことも今回初めて知りました。同氏は1994年に97歳で他界していますが、日本文化センターの開設は1993年だったようですので、完成まで見届けることができたと推測されますので、何よりだったのではないかと思います。
ところで、今回の放送で2020年2月24日のカトリック教会の朝のお祈りの時間に何と宗教とは全く関係のないように私には思える、スティーブ・ジョブズ氏の大学での卒業式における演説が紹介されていたとことを知りましたが、これには大変意外な感じを受けました。この日の放送が特別例外的なものであるのか、それとも常日頃からこのような宗教とは関係のない内容のものも実は度々放送されているのか分かりませんが、もし後者だとすれば、朝のお祈りの時間という番組名から受ける印象とは大分異なりますし、その意図はどこにあるのか興味深いことだと思います。
K. K.